360°ナレッジ|実務トピック|高所構造物・施設管理・防災

2026年7月28日に発生した令和8年熊本地震では、日本製紙株式会社八代工場内にある、高さ60mを超える鉄筋コンクリート造の煙突が倒壊する被害が確認されました。この被害を受け、経済産業省と国土交通省は現地調査を実施し、同年8月18日から、高さ60mを超える鉄筋コンクリート造の煙突を対象に、安全確保のための調査を開始しました。

高い煙突は、地上から全体を見渡すことが難しく、上部や反対側の状況を確認するには、高所作業、足場、ロープアクセス、ドローンなど、現場条件に応じた方法が必要になります。

こうした広範囲の状況確認において、LEAD-Jでは、360度ドローン「Antigravity A1」で煙突全体と周辺状況を広く記録し、詳しく調べる場所を抽出した後、高倍率ズーム機や専門技術者による確認へつなげる「二段階調査」を活用できる可能性があると考えています。

この記事で分かること

  • 高さ60m超の鉄筋コンクリート造煙突に関する国の調査内容
  • 高い煙突の全体確認が難しい理由
  • A1による360度広域スクリーニングの役割
  • 撮影時間、場所の把握、画像切り出し、レポート作成上の利点
  • A1と高倍率ズーム機・専門技術者を組み合わせる二段階調査
  • A1だけでは対応できない精密確認・計測・構造判断

高さ60m超の鉄筋コンクリート造煙突が調査対象

国土交通省が2026年8月18日に公表した通知では、調査対象を「高さ60mを超える鉄筋コンクリート造の煙突」としています。

調査対象となる煙突について、報告が求められている主な事項は次のとおりです。

  • 所有者、施設名、所在地
  • 煙突の高さ、築造年月
  • 損傷状況
  • 劣化状況
  • 損傷・劣化に対する対策予定
  • これまでに実施した補強の時期と内容

調査様式では、損傷状況と劣化状況を「目視等により確認」して報告するよう示されています。また、損傷の程度等に応じて、必要に応じた設計者等への相談や対策の実施も求められています。

今回の調査とドローン撮影の関係

今回の通知で、ドローンの使用が指定されているわけではありません。また、ドローンで撮影すれば国の調査要件を一律に満たせるというものでもありません。煙突の構造、既存資料、過去の点検記録、現場環境、確認したい損傷の種類などを踏まえ、所有者、設計者、点検事業者その他の専門家が、必要な調査方法を判断することが重要です。

通知に記載された報告期限は2026年9月7日17時です。対象となる可能性がある事業者は、必ず国土交通省の最新情報と正式な調査様式をご確認ください。

高い煙突の全体確認が難しい理由

高さ60mを超える煙突では、地上から上部を見上げるだけでは、外周全体の状態を同じ条件で確認することが困難です。

  • 地上からは上部や反対側が見えにくい
  • 一方向の画像だけでは、周囲の設備との位置関係が分かりにくい
  • 高所作業には、転落や落下物などの危険が伴う
  • 足場の設置やロープアクセスには、準備、時間、費用が必要になる
  • 稼働中の施設では、排気、熱、風、周辺設備への影響を考慮する必要がある
  • 煙突周辺では、地上と異なる風や乱流が発生する可能性がある

一方、最初からすべての部分を高倍率ズーム機や高所作業で詳しく調べると、対象範囲が広くなり、撮影、確認、画像整理に多くの時間を要する場合があります。

まず全体を広く記録して関心箇所を絞り込み、その後に必要な場所を詳しく確認する。

第1段階|A1で煙突全体を広く記録する

Antigravity A1は、機体の上面と下面に配置された2つのレンズで、機体周囲を8K 360度映像として記録できるドローンです。

一般的なカメラドローンでは、飛行中にカメラを向けた方向が映像の中心になります。そのため、煙突の東西南北や上部、下部を撮影するには、機体やカメラの方向を調整し、必要な画角が記録されているかを確認しながら飛行します。

A1では、飛行経路の前後左右、上下を一度に記録し、撮影後に必要な方向と画角を選べます。

適切な離隔と撮影計画を設定したうえで、煙突に沿った上昇・下降や直線移動など、比較的単純な飛行経路で全体を記録できれば、方向ごとに構図を作り直す回数を減らし、撮影時間の短縮や撮り漏らしの抑制につなげられる可能性があります。

360度撮影と安全な飛行は別に考えます

A1で360度撮影を行うことと、安全な飛行が自動的に確保されることは同じではありません。飛行前には、風、排気、熱、障害物、電波環境、立入管理、飛行経路などを確認し、現場に応じた安全管理を行う必要があります。

撮影後に周囲を見直せることがスクリーニングに向いている

広域スクリーニングの目的は、360度映像だけで損傷原因や構造安全性を判定することではありません。煙突全体とその周辺を記録し、詳しく確認すべき場所を見つけることが主な役割です。

A1で記録した360度映像は、撮影後に次のような視点から見直せます。

  • 煙突の上部、中部、下部
  • 機体から見た煙突の正面、側面、背面
  • 煙突上部や開口部の周辺
  • 煙突と建屋、配管、設備との位置関係
  • 地上や周辺施設の状況

飛行中にカメラを向けていなかった方向も記録されているため、確認作業中に「反対側も見たい」「周辺設備との位置関係を確認したい」となった場合でも、記録された範囲であれば後から見直せます。

レポート用画像を同じ素材から切り出せる

煙突の調査記録では、撮影するだけでなく、確認した内容を整理し、他の関係者が場所を理解できる資料へまとめる必要があります。

360度映像からは、同じ撮影素材を使って、目的に応じた画像を切り出せます。

  • 煙突全体が分かる画像
  • 上部、中部、下部に分けた画像
  • 特定の方向から見た外周画像
  • 周辺設備を含む位置関係画像
  • 関心箇所を示す画像
  • 高倍率ズーム機で再撮影する場所を示す指示画像

レポート作成中に別方向の画像が必要になった場合でも、その方向が360度映像に記録されていれば、現場へ戻らずに追加の画像を作成できます。これにより、撮影、確認、画像切り出し、関心箇所の整理という一連の作業を効率化しやすくなります。

一方、360度映像から切り出した画像だけでは、煙突のどの位置なのかが曖昧になる場合があります。レポートへ利用する際は、画像と位置情報を対応させる管理方法が必要です。

関心箇所を後から特定しやすくする記録方法

360度映像の利点をレポート作成へ生かすには、撮影前から位置管理の方法を決めておくことが重要です。

  • 高さ方向:上部、中部、下部
  • 周方向:北、東、南、西
  • 詳細位置:映像のタイムコード、撮影順序、飛行区間

関心箇所には「C-01」「C-02」などの識別番号を付け、位置、確認内容、次の対応を一覧にします。

項目記録例
識別番号C-03
高さ区分中部
周方向南東側
映像位置02分14秒付近
確認内容変色・表面状態の変化が疑われる箇所
次の対応高倍率ズーム機による詳細撮影を検討

周辺の建屋、配管、設備なども360度映像に記録されるため、対象箇所と周辺施設との位置関係も確認しやすくなります。

ただし、画像上の位置特定と、測量精度を持つ位置計測は異なります。正確な座標、寸法、ひび割れ幅などが必要な場合は、目的に適した測量・計測方法を別途使用する必要があります。

第2段階|関心箇所を専門機で詳しく確認する

A1による広域記録で、変色、剥離、欠損、補修跡などが疑われる場所を抽出した後は、目的に応じた機材や方法で詳しく確認します。

確認目的考えられる機材・方法主な役割
離れた場所からの詳細撮影高倍率ズームカメラ搭載ドローン抽出した箇所を大きく撮影する
表面温度分布の記録用途に応じた赤外線カメラ目的と条件を定めて温度差を確認する
座標・寸法・変形量等の確認測量・計測機器要求精度に応じた計測を行う
近接・接触確認ロープアクセス、高所作業、打診等画像だけでは分からない状態を確認する
原因・危険性・対策の判断設計者、建築・構造・設備等の専門技術者必要な資料と調査結果を基に判断する

高倍率ズーム機では、離隔を確保しながら、A1で抽出した場所をより大きく撮影できます。必要な箇所だけを対象にできれば、詳細撮影の範囲と画像整理の負担を抑えやすくなります。

赤外線カメラは、対象物の表面温度分布を記録する機材です。煙突の構造的な安全性を直接判定するものではなく、材質、稼働状況、外気、日射、撮影時間などの条件によって結果が変わります。使用する場合は、確認目的と適用条件を明確にする必要があります。

最終的な損傷原因、危険性、補修・補強の要否については、必要な資料と調査結果をもとに、専門技術者が判断する領域です。

A1による広域スクリーニングで期待できること

01 / TIME
撮影時間の短縮

機体周囲を一度に記録できるため、方向ごとにカメラを向け直す作業や、構図確認のための追加飛行を減らせる可能性があります。

02 / COVERAGE
撮り漏らしの抑制

飛行経路周辺が360度で記録されるため、撮影時に選ばなかった方向も後から見直せます。

03 / FLIGHT
比較的単純な飛行経路

完成画像の方向を飛行中に細かく決める必要がないため、適切な離隔を保った直線飛行や上昇・下降を基本に計画しやすくなります。

04 / LOCATION
場所の把握と情報共有

対象箇所だけでなく周辺環境も記録されるため、煙突と建屋、配管、設備などの位置関係を複数の関係者で確認できます。

05 / REPORT
レポート用画像の作成

同じ360度素材から複数方向の画像を切り出し、全体画像、位置関係画像、関心箇所画像などへ利用できます。

06 / HANDOFF
詳細調査への引継ぎ

関心箇所を識別番号、位置区分、画像、タイムコードなどで整理し、高倍率ズーム機や専門技術者による確認へつなげられます。

A1だけでは難しいこと

A1は、煙突の精密点検や構造診断を1台で完結する機体ではありません。

  • 離れた場所から微細なひび割れを確実に識別すること
  • ひび割れ幅、欠損寸法、変形量などを正確に計測すること
  • 鉄筋や煙突内部の状態を確認すること
  • 材料強度や構造耐力を評価すること
  • 損傷原因や倒壊危険性を最終判定すること
  • 設計者や構造専門家による判断を代替すること

「8K 360度」と切り出し画像の解像度

「8K 360度」は全天球全体の記録解像度です。特定方向を切り出した画像が、そのまま8Kの平面画像になるわけではありません。小さな損傷を確認する必要がある場合は、高倍率ズーム機による詳細撮影や接触調査などを組み合わせる必要があります。

360度による広域記録と専門調査を役割分担する

煙突の状態確認では、すべてを一つの機体や一つの調査方法で完結させるのではなく、目的に応じて役割を分けることが重要です。

段階主な機材・担当主な役割
第1段階Antigravity A1・360度カメラ煙突全体と周辺を記録し、関心箇所を抽出する
第2段階高倍率ズーム機・測量/計測機器・専門技術者等抽出した場所を詳しく確認・計測し、必要な判断へつなげる

この二段階調査により、A1を精密点検機の代わりとして扱うのではなく、広域スクリーニング、撮影範囲の確保、関心箇所の抽出、レポート作成、詳細調査への引継ぎを支える機材として位置付けられます。

LEAD-J独自の活用提案です

「二段階調査」は、Antigravity社または国土交通省が名称、方法、性能、成果を定めた公式機能・公式調査方法ではありません。A1の360度撮影特性と限界を踏まえ、LEAD-Jが現場活用の方法として整理し、検討・検証している考え方です。

全体を360度で広く捉え、必要な場所を専門機で深く見る。

煙突だけでなく、塔状構造物、タンク、橋脚、建物外壁、工場設備など、全体状況と周辺環境を同時に記録したい高所構造物にも応用できる考え方です。

継続記録が将来の比較資料になる

地震や台風などの災害後に状態を確認する際、災害前の記録がなければ、確認した変状が以前から存在していたものか、災害によって発生・拡大したものかを画像だけで判断することは困難です。

平常時から同じ対象を継続的に360度撮影し、撮影経路、位置区分、画像の切り出し方法などを揃えておけば、過去の状態を見直すための基礎資料になります。

360度記録は、災害発生後の初期状況把握だけでなく、施設管理、防災、事業継続のための平時の記録としても活用できる可能性があります。

ただし、撮影時期や撮影条件が異なる画像の単純比較だけで、損傷の発生時期や原因を断定することはできません。比較結果は、専門調査を行うための資料として扱う必要があります。

まとめ

令和8年熊本地震による日本製紙八代工場の煙突倒壊を受け、高さ60mを超える鉄筋コンクリート造の煙突を対象とした国の調査が始まりました。

こうした高所構造物の調査では、地上から見えにくい広い範囲をどのように記録し、詳しく確認すべき場所をどのように絞り込むかが課題になります。

  • A1で煙突全体と周辺状況を360度記録する
  • 撮影後に周囲を見直して関心箇所を抽出する
  • 位置区分、識別番号、画像、タイムコード等を整理する
  • 高倍率ズーム機や測量・計測機器で必要な場所を詳しく確認する
  • 必要な資料を専門技術者へ引き継ぐ

Antigravity A1の360度撮影は、適切な撮影計画と安全管理を前提として、撮影時間の短縮、撮り漏らしの抑制、周辺を含む場所の把握、レポート用画像の切り出し、詳細調査への引継ぎなどに活用できる可能性があります。

一方、微細な損傷の識別、正確な計測、構造安全性の評価、補修・補強の判断は、A1だけで完結できません。全体を広く記録する360度ドローンと、必要な場所を詳しく確認する専門機・専門技術者を適切に組み合わせることが重要です。

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LEAD-Jでは、Antigravity A1による広域記録、撮影計画、安全運用、関心箇所の整理、専門機材・専門技術者との役割分担についてご相談を承っています。対象施設、確認目的、現場環境を踏まえて、適用可能性を個別に検討します。

※本記事は、国土交通省が2026年8月18日に公表した情報とAntigravity社の公式製品情報を基礎として、A1の特性を踏まえ、LEAD-Jが検討する活用方法を整理したものです。A1による撮影は、国が指定・認定する調査方法、法定点検、構造診断または専門技術者による安全性評価を代替するものではありません。対象施設の調査にあたっては、最新の公式情報、関係法令、施設管理者の規則、設計者・専門技術者の判断をご確認ください。

公式情報確認日:2026年8月24日