Antigravity A1 360度撮影・現場活用シリーズ 第12回

クマ・鳥獣被害対策の現場では、山林、農地、防護柵、箱わな周辺など、人が状況を確認するために現地へ接近すること自体が危険につながる場合があります。Antigravity A1の360度撮影は、クマを追跡・捕獲するための機能ではありませんが、関係者が現地へ接近する前に周辺状況を広く確認し、次の行動を判断するための情報を記録する方法として活用できる可能性があります。

本記事では、A1をクマ・鳥獣被害対策へ活用する場合の役割、具体的な利用場面、安全な運用手順、できることとできないこと、自治体や関係機関で導入する際の考え方を整理します。

この記事で分かること

  • A1をクマ対策へ活用する場合の基本的な位置付け
  • 巡回前確認や広域記録に360度撮影を使う考え方
  • A1で確認できることと、確認できないこと
  • クマを発見した場合に行ってはいけない運用
  • 操縦者、補助者、現場責任者、専門担当者の役割
  • 自治体等で安全に導入するための実証と運用設計

クマを探す機体ではなく、人が接近する前に周辺を確認する機体

クマ対策へドローンを導入すると聞くと、上空からクマを発見し、追跡する使い方を想像するかもしれません。

しかし、Antigravity A1は、クマの検知、個体識別、熱源確認、追跡、捕獲を目的とした専門機ではありません。

A1の特徴は、機体周囲を8K 360度映像として記録し、撮影後に必要な方向や画角を選べることです。

この特徴をクマ・鳥獣被害対策へ生かす場合、基本となる役割は、職員、猟友会、捕獲従事者、農業関係者などが現地へ接近する前に、周辺環境を広く確認することです。

LEAD-Jの考え方

A1をクマの発見を保証する機材として位置付けるのではなく、人が現地へ入る前の「先行確認」と、現場全体を残す「広域記録」のための機材として位置付けます。

映像にクマが映っていないことは、その場所にクマが存在しないことを意味しません。A1の映像は、安全を最終判定するものではなく、接近、中止、追加確認、専門担当者への引継ぎを判断するための情報の一つとして使用します。

クマ対策で想定できる主な利用場面

A1による360度撮影は、クマそのものの捜索を主目的とするものではありません。クマが出没する可能性のある場所や、人が巡回する場所の周辺状況を広く記録し、次の確認や対応を判断するために使用します。

利用場面A1で記録する内容次の判断
箱わな周辺の巡回前確認箱わな、周辺の草木、進入経路、退避方向、付近の人や車両現地へ接近するか、専門担当者へ連絡するか
農地・果樹園の確認作物被害、倒伏、周辺の山林、防護柵、農道の状況被害範囲、追加確認箇所、修繕箇所の抽出
防護柵の巡回破損、倒木、地形変化、柵周辺の植生、接近経路補修の必要性と安全な作業計画
山林・林縁部の確認林道、獣道の可能性がある場所、見通し、周辺施設との位置関係重点確認区域と人の立入り範囲の検討
出没情報を受けた初期確認通報地点周辺、道路、河川、住宅、学校、施設との位置関係関係部署への共有、立入管理、専門対応への移行
継続的な環境記録植生、見通し、防護柵、放置果樹、周辺環境の変化前回記録との比較と対策の見直し

クマが映像に記録された場合だけでなく、倒木、防護柵の破損、草木による見通しの悪化、人や車両の動線などをまとめて確認できることにも意味があります。

一方向ではなく、周囲をまとめて記録する

一般的なカメラドローンでは、飛行中にカメラを向けた方向が映像の中心になります。

対象物や地面を撮影している間、機体の後方や側方にある山林、道路、建物、人の動きなどが記録されていない場合があります。

A1は機体周囲を360度で記録するため、撮影後に前方、後方、側方、上方、下方を見直せます。

例えば、飛行時には箱わなの状態を確認し、撮影後には同じ素材から、周辺の草木、接近経路、防護柵、退避方向などを別の視点で確認できます。

撮り逃しを減らすことと、安全を保証することは異なります

360度撮影は、カメラを向けていなかった方向を後から確認できるため、画角による撮り逃しを抑えやすくなります。

一方で、樹木、茂み、建物、地形などに隠れた場所まで記録できるわけではありません。映像に個体が確認できない場合でも、周辺にクマがいないとは判断できません。

A1でできることと、できないこと

A1で支援できること

  • 巡回前の周辺状況の確認
  • 山林、農地、防護柵、箱わな周辺の広域記録
  • 撮影後の視点変更と見直し
  • 関係者間の状況共有
  • 継続撮影による環境変化の比較
  • 専門調査前の関心箇所の抽出

A1だけではできないこと

  • クマの存在や不在の保証
  • 熱画像による個体・熱源の確認
  • 樹木や茂みの裏側の確認
  • 個体の種類、性別、年齢等の確定
  • クマの追跡、威嚇、誘導、捕獲
  • 安全性や対応方針の最終判断

赤外線センサーと赤外線カメラは異なる

A1の機体底部には赤外線センサーが搭載されていますが、これはクマなどの動物が発する熱を画像として捉える赤外線カメラやサーマルカメラではありません。

公式スペックでは、A1の専用センシング機器として、前方および下方のビジョンセンサーと、機体底部の赤外線センサーが記載されています。

さらに、2026年5月に公開されたアップデートにより、360度撮影用のデュアルレンズカメラシステムを活用した360度センシングと、前方・下方のビジョンセンサーを組み合わせる全方向障害物回避に対応しています。

A1の障害物認識について

A1は、前方・下方のビジョンセンサー、底部の赤外線センサー、360度撮影用のデュアルレンズカメラシステムを活用した360度センシングを組み合わせ、前後左右・上下の障害物を認識する全方向障害物回避に対応しています。

ただし、底部の赤外線センサーは、飛行時のセンシングを補助するためのものであり、温度分布を画像化したり、動物の体温を検出したりする赤外線カメラではありません。

また、障害物回避機能は、細い枝、葉、電線、網、模様の少ない対象、反射しやすい対象、照度不足、天候、障害物の形状などによって、正常に機能しない場合があります。全方向障害物回避への対応は、あらゆる障害物との衝突を防止することを保証するものではありません。

そのため、A1の障害物センシングを、クマやその他の野生動物を自動的に発見・識別する機能として扱うことはできません。

クマなどの熱源確認、暗所や夜間における捜索、遠方からの個体確認には、赤外線カメラや高倍率ズームカメラを搭載した専門機など、目的に適した機材が必要です。A1は、日中の明るい環境で周辺を広く記録し、巡回前の状況確認や関係者間の情報共有へ活用する機体として位置付けます。

なお、全方向障害物回避は、対応する最新の機体・ゴーグル・コントローラーのファームウェアへ更新した状態で使用してください。機能や設定は、使用するファームウェアのバージョンによって異なる場合があります。

センシングの構成と動作条件の詳細は、Antigravity A1公式スペックをご確認ください。全方向障害物回避の現在の機能については、Antigravity A1公式製品ページもあわせてご確認ください。

基本となる運用の流れ

クマ・鳥獣被害対策でA1を使用する場合は、現地へ到着してすぐに飛行させるのではなく、事前情報、現場条件、役割分担、退避方法を確認したうえで運用します。

1.出没情報と現場条件を確認する

  1. 出没または被害が確認された日時
  2. 目撃地点と移動方向
  3. 人身被害の有無
  4. 住宅、学校、農地、道路等との位置関係
  5. 警察、自治体、猟友会等の対応状況
  6. 立入規制や通行規制の状況

緊急対応が進行している場所では、ドローン運用が現場活動や有人航空機の妨げにならないことを、関係機関と事前に確認します。

2.人の安全を確保できる運用拠点を決める

操縦者と補助者がクマの出没地点へ不用意に接近しないよう、車両や建物等へ退避しやすい場所を運用拠点として選びます。

離着陸場所は、第三者、車両、電線、樹木、草木、砂じん等の影響を確認し、安全に離着陸できる屋外の場所を設定します。

車内からの離着陸は標準運用としません

車両を待機・退避・監視の拠点として利用することは考えられますが、車内や車両開口部からの離着陸は、プロペラとの接触、GNSS・映像伝送への影響、車体や開口部への衝突など、別の危険を伴います。

LEAD-Jでは、車内離着陸を通常の手順として扱わず、必要性、機体挙動、法令、現場条件、安全設備を含めた別途の検証対象とします。

3.安全な範囲を短時間で記録する

飛行は、直線飛行、一定高度、一定速度を基本とし、複雑な旋回や対象物への過度な接近を避けます。

撮影のためだけに林内へ深く進入したり、枝葉の近くを飛行したりせず、安全な位置から周囲を360度で記録します。

安全な離隔と直線飛行については、第3回「安全な離隔と直線フライト」もご覧ください。

撮影計画と現場設計については、第4回「360度撮影の飛行計画と現場設計」で詳しく解説しています。

4.映像を確認して、次の行動を決める

着陸後は、クマが映っているかどうかだけでなく、次の事項を確認します。

  • 人が接近する経路の見通し
  • 周辺の山林や茂みとの位置関係
  • 防護柵や箱わなの状態
  • 倒木、落石、ぬかるみ等の危険
  • 住宅、道路、学校、農地等との位置関係
  • 追加確認が必要な場所

確認結果をもとに、現地へ接近する、接近を中止する、立入管理を行う、赤外線機等で追加確認する、警察や専門担当者へ引き継ぐといった次の対応を決めます。

飛行中にクマを確認した場合

飛行中のライブビューまたは撮影映像でクマを確認した場合、個体へ接近したり、追跡したりしません。

機体の飛行音や接近がクマの行動へ影響を与え、個体を人のいる方向へ移動させる可能性も考慮する必要があります。

クマを発見した場合の基本対応

  1. 個体へ接近しない
  2. 追跡、威嚇、誘導を行わない
  3. 周囲の人や関係者へ直ちに共有する
  4. 安全に帰還できる経路を確認する
  5. 必要に応じて飛行を中止し、着陸する
  6. 自治体、警察、猟友会等の既定の連絡体制へ引き継ぐ

クマの対応方針は、自治体、警察、猟友会、鳥獣行政担当者等が、それぞれの法令、計画、役割分担に基づいて判断します。ドローン操縦者が映像だけを見て、捕獲や接近の可否を独自に判断するものではありません。

夜間・雨天・悪天候では運用しない

LEAD-Jが検討するクマ・鳥獣被害対策でのA1運用は、日中かつ天候と視界が確保できる条件を基本とします。

夜間飛行、雨天時の飛行、強風時、霧、降雪、視界不良時には運用しません。

A1は防水仕様ではありません。また、前方・下方のビジョンセンサーは、十分な照明や識別可能な模様など、所定の動作環境を必要とします。

夜間の熱源確認が必要な場合は、必要な許可・承認、安全管理体制、専門技能を備えたうえで、赤外線カメラ搭載機等の専門機材を使用する別の業務として検討します。

操縦者だけで完結させない

クマの出没可能性がある場所では、操縦者がゴーグル映像と機体操作に集中している間も、周辺状況を継続して確認する必要があります。

担当主な役割
操縦者機体操作、飛行状態の確認、録画、帰還・着陸・中止判断
補助者機体周囲、第三者、車両、空域、障害物、クマを含む周辺状況の監視
現場責任者出没情報、立入管理、関係部署との連絡、現場全体の中止判断
鳥獣対策担当者クマの生態、出没状況、捕獲・対応方針に基づく専門判断
記録担当者飛行日時、場所、経路、映像、確認事項、判断結果の記録

小規模な運用では複数の役割を兼務する場合がありますが、操縦者一人だけで、飛行、周辺監視、クマ対応、関係機関との連絡をすべて行う体制は避けます。

専門機材と専門担当者へつなげる

A1による360度撮影は、現場全体を広く確認することに適しています。一方、遠方にいる個体の詳細確認、暗所や茂みの中の熱源確認、個体の専門的な判定には適していません。

そのため、A1だけですべての確認を完結させるのではなく、必要に応じて次の手段へつなげます。

  • 高倍率ズームカメラ搭載ドローン
  • 赤外線カメラ搭載ドローン
  • 定点カメラやセンサーカメラ
  • 自治体の鳥獣行政担当者
  • 警察、猟友会、捕獲従事者
  • 野生動物管理の専門家

最初から人が危険区域へ入るのではなく、まず広く確認し、必要な場所と対応を絞り込む。

この役割分担は、LEAD-Jが提案する「二段階調査」の考え方にもつながります。

継続撮影を対策の見直しへつなげる

クマ・鳥獣被害対策では、一度の撮影だけでなく、同じ場所を継続して記録することにも意味があります。

  • 防護柵の破損や補修状況
  • 草木の繁茂による見通しの変化
  • 倒木や地形の変化
  • 農作物や果樹の被害範囲
  • 箱わな周辺の環境変化
  • 人の生活圏と山林との境界状況

可能な範囲で飛行方向、高度、速度、離隔、撮影時間帯をそろえることで、時期の異なる360度映像を比較しやすくなります。

ただし、映像から獣道や個体の行動を確定する場合は、鳥獣管理の専門知識や、定点カメラ、痕跡調査等を組み合わせる必要があります。

撮影データの共有と管理

撮影データには、住宅、人物、車両、農地、施設、通報地点等が記録される可能性があります。

自治体や関係機関で共有する場合は、閲覧者、共有範囲、保存期間、ファイル名、撮影日時、撮影場所、個人情報への対応をあらかじめ決めます。

管理項目記録する内容
撮影情報日時、場所、目的、担当者、飛行経路
出没情報目撃日時、目撃地点、通報内容、共有元
確認結果個体の確認有無、周辺状況、関心箇所
判断結果接近、中止、追加確認、専門担当者への引継ぎ
データ管理保存場所、閲覧権限、共有先、保存期間
個人情報人物、車両番号、住宅等の映り込みへの対応

公開用の映像と、行政・関係機関内で確認する記録データは、目的と閲覧範囲を分けて管理することが重要です。

自治体等で導入する場合の進め方

クマ対策への導入は、機体を購入・配備するだけでは成立しません。

対象地域の出没状況、既存の連絡体制、担当部署、猟友会等との役割分担、飛行可能な場所、映像の利用方法を整理し、小規模な実証から運用手順を検証します。

導入前に決めておく項目

  • どの場所を対象にするのか
  • どのような通報・巡回時に使用するのか
  • 誰が飛行の実施を判断するのか
  • 操縦者と補助者を誰が担当するのか
  • クマを確認した場合に誰へ連絡するのか
  • どの条件で飛行を中止するのか
  • 映像を誰が確認し、どこへ保存するのか
  • 専門機材・専門担当者へどう引き継ぐのか

環境省の「クマ類の出没対応マニュアル改定版」では、出没に備えた連絡体制、対応方針、研修、人員配置、出没時の対応などが整理されています。

A1を導入する場合も、既存のクマ出没対応体制を置き換えるのではなく、その中に「巡回前の広域確認」という工程を追加する形で設計します。

クマ類の出没対応については、環境省「クマ類の出没対応マニュアル改定版」をご確認ください。

航空法と飛行場所のルールを確認する

クマ対策を目的とする飛行であっても、通常は航空法、飛行場所の管理規則、土地管理者との調整等が必要です。

飛行場所や飛行方法によっては、人口集中地区の上空、夜間飛行、目視外飛行、人または物件から30m未満の飛行などに関する許可・承認が必要になる場合があります。また、緊急用務空域に指定されている場合は、原則として飛行できないため、飛行前に最新の指定状況を確認する必要があります。

捜索・救助等に関する特例の適用は、依頼主体、活動内容、緊急性などによって判断されるものであり、「クマ対策だから自動的に特例が適用される」とは限りません。

最新の制度は、国土交通省・無人航空機 飛行許可・承認申請ポータルサイト等でご確認ください。

まとめ

Antigravity A1をクマ・鳥獣被害対策へ活用する場合、その役割はクマを発見・追跡・捕獲することではありません。

  • 人が現地へ接近する前に周辺を確認する
  • 山林、農地、防護柵、箱わな周辺を広く記録する
  • 撮影後に必要な方向を見直す
  • 関係者間で現場状況を共有する
  • 追加確認や専門対応が必要な場所を抽出する
  • 継続撮影によって環境変化を記録する

これらを、A1の360度撮影が支援できる領域として位置付けます。

一方で、クマの存在や不在を保証すること、熱源を確認すること、個体を追跡すること、安全性を最終判定することはできません。

A1を単独で使用するのではなく、補助者、現場責任者、鳥獣対策担当者、警察、猟友会、専門機材等と適切に組み合わせることで、巡回前の安全確認と現場記録へ活用できる可能性があります。

次回予告

第13回では、「環境保全・植生記録への活用」を解説します。

山林、河川、農地、植生等を360度で継続的に記録し、環境の変化、土地利用、防護設備、周辺状況を関係者間で共有する考え方を整理します。

クマ・鳥獣被害対策への360度撮影活用をご相談ください

LEAD-Jでは、Antigravity A1を活用した巡回前確認、山林・農地・防護柵・箱わな周辺の360度記録、安全運用、実証、導入支援について検討・検証しています。地域の出没状況や既存の対応体制に応じた活用方法をご相談ください。

※本記事は、Antigravity社の公式製品情報、環境省のクマ類出没対応資料、国土交通省の無人航空機に関する公開情報を基礎として、LEAD-Jが検討・検証する活用方法をまとめたものです。クマ・鳥獣被害対策への活用は、Antigravity社が性能や成果を保証する公式用途ではありません。また、本記事は、クマの発見、個体の不在、現場の安全性、飛行の法令適合性を保証するものではありません。実際の運用では、自治体、警察、猟友会、鳥獣行政担当者等の対応方針、最新の関係法令、飛行場所の管理規則、製品の取扱説明書をご確認ください。

公式情報確認日:2026年8月12日